心を澄まして感じる【わさびだ療育園】

昼食後のひと時、リズムのいい曲に合わせて、小柄な身体をいっぱいに使って体操をしていたのが職員の磯崎さん。フロアーがパッと明るく見えて、身体は動かなくても何人ものお客様の視線は彼女に向けられていました。そんな磯崎さんは湘南ケアカレッジの卒業生でもあります。

 

「一人で踊っているように見えちゃったね」

 

お客様の坂屋さんも、踊っている彼女の姿を見て笑ってしまったと、目を細めます。楽しそうに話すふたりの様子に思わずシャッターを切ると、わさびだ療育園の日常が一瞬だけ映りました。

 

わさびだ療育園は、町田で50年以上の歴史をもつ社会福祉法人合掌苑が運営する、障がい者施設です。他にも、アシステッドナーシング輝の杜や養護老人ホーム合掌苑などの高齢者施設を運営しています。わさびだ療育園には、身体と知的それぞれに重度の障害がある方々が通っていて、町田市通所療育施設とも呼ばれています。

 

重度の身体障害と知的障害があると言っても、障害の種類も程度も異なります。緊張して身体が棒のように突っ張ってしまう方、言葉を理解するのが難しい方や理解はしていても返答するのが難しい方など、障害されている機能も異なるため、必要な支援も異なります。中には、酸素吸入や胃ろう管理など医療的ケアの必要なお客様もいます。看護師も常駐しているので、医療的ニーズのあるお客さまでも断らずに受け入れられるのも、わさびだ療育園の強みです。


念願の1人暮らし

昼食後に身体を休めるために横になっているところ、カメラを向けると、口角を上げてニコリといい表情を見せてくれた田中さん。

 

「一人暮らしに向けて髭を伸ばしているみたいです」と、職員さんが紹介をしてくれました。若いころは金髪にしていたこともあるという、やんちゃな一面も持っています。そんな彼の念願だった一人暮らしがようやく叶うのです。

 

一人暮らしとはいえ、24時間ヘルパーが交代に入ることで彼の生活を支えていきます。ひとりっきりの生活ではありませんが、親元を離れて住まいをもつことになります。自分で自分の生活を決定することができる、自立こそが願いだったのでしょう。

 

月曜日から土曜日まではわさびだ療育園で日中を過ごし、日曜日にはガイドヘルパーさんと一緒に街に繰り出します。こう見えて、パチスロや競馬好きな彼。パチスロでは、上手に彼の出すタイミングを読み取ってスロットのボタンを押してくれるヘルパーさんと組むと、大儲けできることもあるのだと誇らしげに言います。お酒を呑むことも好きで、芋焼酎の黒霧島が最近のお気に入りだそう。

 

職員さんが教えてくれる田中さんの趣味や好み、私の問いかけに応えて一人暮らしで夢見ていることを聞くうちに、失礼ながら勝手に私が最初抱いていた彼のイメージと、実際の彼との間に大きなギャップがあることに気付きました。

 

車いすに座り、首の位置を自力で保持することすら難しく、少しでも緊張すると意思とは関係なく動く腕や見た目だけで判断してしまうと、彼が一人暮らしを本気で考えているとは想像できませんでした。けれども、身体は彼の思うようには動かずとも、他の男性と同じように恋をしていたり、職員さんを通して知る彼の青春時代や飲み会での失敗談はユニークで、遊び心たっぷりな田中さんがしっかりと伝わってきたのです。

 

彼がどんな人なのか知ったあとには

「そりゃ、そろそろ一人暮らししたいって思いますよね」と、自然と思えるようになるのです。目だけで見えることだけではなく、聞いたこと、感じたことを足してみると、彼の見え方はがらりと変わりました。


お客様も職員も無理をしない

立位をとることが難しいお客様の多いわさびだ療育園では、ベッドから車いすなどの移乗の際には、介護リフトを積極的に使っています。力任せでお客様を持ちあげようとしてしまうと、介護する職員さんも腕や腰などへ過度に力を入れてしまうことも考えられます。

 

また、無理をして職員さん一人でお客様の移乗をしようとすれば、職員さんの身体の負担になる上に、お客さまにとっても、安心できる介助とは言えません。福祉機器を適切に使うことで、お客様にも職員さんにとっても負担の少ない介護に出来るのです。


車いすに座っているお客様も1日中座りっぱなしでは疲れてしまうので、ベッドやマットレスに横になり休む時間が必要になります。また、肌の弱い方にとっては長時間の座りっぱなしによる圧力とズレは、褥瘡を起こしてしまう原因にもなります。ほとんどのお客様が車いすで生活しているため、毎回お客様も職員も無理をしない移乗をするためには、福祉機器の活用は不可欠です。


五感で感じてごらん

水戸黄門のテーマソングでリズムをとることが好きな増田さんは、職員さんに手を添えてもらいながら「トン、トン」と車いすに取り付けてあるテーブルを鳴らしてくれました。職員の仲山さんが口ずさむ歌に、増田さんの目がみるみる輝きだします。

 

わさびだ療育園で働いて3年目になるという仲山さんは「五感で感じてごらん」と教えてくれた先輩の言葉を、今も大事にしていると言います。

 

彼女は以前、高齢者の介護施設に勤めていました。転職を考えたときに思い出したのが、ずっと胸の奥にしまってあった中学生の頃にボランティアで関わった重症心身障がい者施設の人のことなのだそう。

 

「ここ(わさびだ療育園)のお客様は、みんな目が澄んでいるんです」

 

そう話す仲山さんの目も、リズムをとっている増田さんと同じように澄んでいました。

 

言葉でのコミュニケーションが難しかったり、思っていることはあるのにそれを表現する術が少ないお客様を支援するためには、五感で感じるくらいにサインを受け取るアンテナを広く深く張っておくということでしょうか。

 

増田さんも言葉で返答するコミュニケーションはできなくとも、表情がにこやかになり、目をいっぱいに輝かせることで、しっかりと“楽しい”という気持ちを表現しています。その表現に気付けるかどうかは感じる人の感じ方次第だと思います。


お客様が飲みやすい、食べやすい方法

水分を飲むにしても、お客様によって障害されている機能が異なるので、介助の仕方や介助道具もさまざまです。脳性麻痺などにより、本人の意思とは関係なく身体が動いてしまう方は、口に含んだ水分を意図せず舌で口の外へ追い出してしまうなどしてうまく飲めないことがあります。その方には、舌をよけて水分を口に含ませたり、とろみをつけるなどして飲み込みやすくしたり調整します。

 

職員さんの立ち位置も、お客様の口の動きや飲み込めているかを確認できるところを選びます。一筋縄ではいかないことも多く、試行錯誤を繰り返して、お客様が飲みやすい・食べやすい方法を探し出します。

 

簡単ではないからこそ、うまくいったときの嬉しさもひとしおです。


見る、聞く、感じる

車いすに座った田中さんの、目線と声で施設長の佐藤さんは何かを察して動きました。

 

「田中さん、座りなおしますか?」と声をかけると、田中さんはYESの合図である眉を動かす反応をしてくれました。

「どっち側だろうな」と佐藤さんは、田中さんの目線で出される希望を見て介助しています。違えばNOの合図である首をふるアクションをして答えてくれるので、聞きながら少しずつ心地の良いポジションへと介助していきます。

 

今年で開設から21年目のわさびだ療育園に、佐藤さんは施設の立ち上げ期から関わってきました。昔の写真を見ると、すいかの着ぐるみに身を包んでレクリエーションに華を添えたり、お客様と笑ったり驚いたりする佐藤さんの姿がわさびだ療育園の歴史と共に写真に残っています。

田中さんも21年前にちょうど特別支援学校の高等部を卒業して、わさびだ療育園にやってきました。

 

「ずっと一人暮らししたかったんだよなぁ」

 

佐藤さんが田中さんに語りかけると、田中さんの眉が少しだけ動いたように見えました。

 

その会話から、21年もの歳月を共に真剣に過ごしてきたからこそ生まれた、野球のピッチャーとキャッチャーのバッテリーのような呼吸が感じられた気がしました。それほどまでに心を通い合わせるには、“今なにを思っているのだろうか”、“何が望みなのか”を理解しようとする気が遠くなるような時間の積み重ねが必要だったのではないかと思うのです。

 

きっと、最初は田中さんも思っていることをうまく伝えることが出来ずにもどかしい思いもしたことでしょうし、佐藤さんもサインを理解できないことに思い悩んだときもあったはずです。

 

それでも、目で見える情報だけに頼らずに、耳で聞いてみたり、肌に触れてみたり、感じ取ろうとすることから、お客様と職員さんとのコミュニケーションは始まるのだと思います。時には、耳ではなく心を澄まして感じてみる方が、声がよく聞こえるかもしれません。


採用情報

施設・事業所名称 社会福祉法人 合掌苑 わさびだ療育園
 サービス形態 生活介護
 勤務場所 町田市金森東3-18-16
 最寄り駅・アクセス J横浜線成瀬駅 下車 徒歩15分 小田急線・横浜線町田駅からバスにて市営住宅前下車、徒歩5分
募集職種 介護職
雇用形態 ①正職員 ②限定正職員 ③非常勤
仕事内容

【お客様の生活サポート】お客様にご安心して生活いただけるようサポートするとともに、毎日を楽しく過ごしていただけるよう、様々なアクティビティの企画・運営をしていきます。

給与

①正職員 基本給 217,000円(採用時22歳の場合、年齢・経験に応じて考慮します)、処遇改善手当5,000円、(介護福祉士手当10,000円、住宅手当、扶養手当)

②限定正職員 時給1,100円~、処遇改善手当5,000円、(介護福祉士手当10,000円、住宅手当、扶養手当)

③非常勤 時給1,000円~

勤務時間 8:30~17:30 シフト制
休日

4週8休、リフレッシュ休暇年間8日間他

資格 初任者研修修了者以上
ボーナス ①年2回 7月・12月 業績・評価による
夜勤 なし
交通費 上限30,000円まで支給
社会保険 社会保険完備(厚生年金、健康保険、雇用保険、労災保険)
車通勤
昇給 年1回 当苑規定による
選考基準・プロセス

正職員(適性検査及び三次面接まであり)

限定正職員・非常勤(面接のみ)

見学 OK
その他  


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就職相談担当 影山
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