正月明けごろ施設・事業所の採用担当者さんと話していると、インフルエンザが今年はあまり流行っていないと耳にし、少しほっとしていたのが随分と前のことのように思えます。それから、新型コロナウィルスのニュースが瞬く間に広がり、楽観的な私も介護・福祉の仕事はこれからどう変わっていってしまうのだろうかと漠然とした不安を感じていました。
私が支援員として働いている障害者の方が暮らすグループホームも、徐々にその影に飲み込まれていました。ご利用者さんが楽しみにしている土日のガイドヘルパーが中止となり、ついで平日の日中を過ごす通所も休業。行き場がなくなったご利用者さんは、グループホームで24時間過ごすことになっていました。それはこれまで何十年とかけて裾野を広げてきた日常が、小さく小さく織り畳まれていっているようで、窓の外を物欲しげに見ているご利用者さんの後ろ姿に切なさもこみあげました。
また、グループホーム内でマスクを常時着用しての支援は、とにかく表情が伝わりづらく、目の細い私は少し顔の緊張を解こうものなら「怒っているの?」とご利用者さんから心配される始末。マスクで口元が隠れるだけで、表情の受け止め方はそれほど変わるのかと、反省しました。
高齢者の方が暮らす施設でも、早くから面会制限がかかり、出入りする人を制限するようになっていました。テレビや新聞などのマスメディアのニュースばかりを見ていると、障害者や高齢者の方々は日常を奪われ、隔絶され、ひと昔前のそれに逆行しているようにすら感じてしまいました。
しかし、実際に施設・事業所の担当者の方と話してみると、混沌とした世間とは裏腹に、粛々と、普段と変わらないことをあえて続けていることを知りました。
「特養で暮らす奥様を、毎日見舞っていた旦那様がいたのですが、持病のリスクから直接会う面会は制限せざる負えなくなりました。楽しみにしている面会を続けるためにはどうしたらよいかと考えた結果、2階のガラス窓の前に奥様に出てきてもらい、旦那様は1階の窓から中庭を隔てて顔を見せ合うことにしました。2階と1階から窓越しに毎日手を振り合う様子が、まるで現代のロミオとジュリエットのようで微笑ましいのですよ」
「ゴールデンウィークに孫に会えるのを楽しみにしていたご利用者さんのために、遠方からでも面会できるように、リモート面会を始めました」
「毎日入居者の方と行っていた体操を向かい合っての運動を避けるために、みなで同じ方向を向いて実施しています。外出を控えている分、身体を動かすことがより楽しくなっているようにも見えます」
こういったエピソードから、その創意工夫に驚くとともに、さすがだなと誇らしくもなりました。思えば、介護・福祉の現場ではこのような状況でなくとも、何かしらの制限があるなかで、いかに手を加えて、ご利用者さんに満足してもらうかという問いが日常的に繰り広げられています。「右手は動かないけれど左手は動かせるから、動かしやすいようにテーブルを整えてみよう」、「外食ができないなら、グループホーム内で美味しいものを作って食べよう」とできないことではなく、どのように工夫(支援)したらできるように(より良く)なるかといった発想があるのです。数学のように、問いへの答えはいつも同じ1つに行きつくというわけではなく、状況に応じて変化するそのときの最適解があることを知っているのです。
「状況はどうであれ、私たちは今できることをやっていくしかありません」
力強くそう語る関係者は一人や二人ではありません。
私もできること、するべきことは、できないことを列挙することではなく、現状においての最適を考え、更新し続けていくことなのだと思います。
(影山)