音声ガイドをディスクライバーが書く際も、まずは音声だけで映像を聞くことから始まります。そこから、「音声だけでは分からなかったこと」と「分かったこと」に分類します。そして、今度は映像を見ながら、「音声だけでは分からなかったこと」を音声ガイドの台本に書き起こしていきます。
講座で使用した台本を参考にすると、写真の一番左の列が映画の各シーンの時間です。同じシーンを何度も繰り返し見るために、秒刻みのこの時間が目印になります。真ん中の列が役者さんのセリフ。黄色い色がついている行は、場面が切り変わるためシーンの前後に音声ガイドでの説明が必要になります。そして、一番右の列が音声ガイド。こちらは私が実際に考えたものですが、ここが白紙の状態からディスクライバーは映画を見て書き込んでいきます。
たとえば、風が吹いている砂浜を少女が長い黒髪をなびかせながら走るシーンにセリフがなく、その場面を音声ガイドによって補足するとします。風の音が映画に入っていたなら、「風が吹いている」という音声ガイドは不要です。ただ、風で髪がなびいている少女については音だけでは分からないため、音声ガイドが必要になります。つい説明したくなることほど、耳を澄ませば実は分かることであったりします。
実際に音声ガイドをつけてみると、登場人物のセリフなどにかぶらないようにするには、文字数にも限度があり、入れられる言葉は案外少ないことに気付きます。私たちが視覚から得ることのできる情報量があまりにも多すぎるのです。たとえば夕暮れの景色ひとつをとってみても、落ちていく太陽と伝えるのか、夕日が映る水たまりについて伝えるのか、ただ何となく見ていた映像を、「何を伝えたい映像なのか」という視点で見るようになります。
音声ガイドをつけるときには、何度も繰り返しその映像を見て、主旨をとらえ、ありすぎる情報の中から必要な情報を選んで言葉に変換して伝えます。何でもかんでも伝えればいいのではなく、大事なことを伝えるために、あえて捨てるのです。
音声ガイドの役割としては、映像を目で見ている人と同じタイミングで、音声ガイドを聞いている人にも情報が伝わることがベストだとされています。たとえば映画の中で、電子レンジを使った瞬間、ブレーカーが落ちて部屋が真っ暗になるシーンに音声ガイドをつけてみました。バチッとブレーカーが落ちる音がして、「あっ!」と、びっくりする親子の声が聞こえます。音だけを聞いているといきなりバチッという音がして、「あっ!」と観客は驚いているけれど、ブレーカーが落ちたという情報が見えていない視覚障害者には、なぜ驚いているのか分かりません。音声ガイドは、ブレーカーが落ちた音がした瞬間に部屋が真っ暗になったという情報を伝えなければならないのです。
部屋が真っ暗になるという視覚でしか分からない情報を、音声ガイドとして伝えるタイミングが遅いと、視覚障害者は何が起きているか分からない宙ぶらりんの状態で待つことになってしまうのです。そういった、情報が足りない結果に起こるつまづきを音声ガイドで補うことで、できる限りフラットにならしていくイメージです。
見えていることを音声ガイドで100%表現することは難しいとしても、ちょっとした補助があることで、「見えている人と同じタイミングで、視覚障害がある人も笑える」ことを音声ガイドは可能にできるのです。
(影山)
第1回:音声ガイドを知っていますか?